札幌地方裁判所 平成4年(ワ)1773号 判決 1995年12月21日
原告
佐藤敬治
同
岩田一男
同
賀川正昭
同
古田俶子
同
清水功
同
千葉孝信
同
今野猛
同
株式会社エヌアイプランニング
右代表者代表取締役
中川博
右八名訴訟代理人弁護士
髙橋剛
同
奥泉尚洋
同
本間裕邦
被告
日本電信電話株式会社
右代表者代表取締役
児島仁
右訴訟代理人弁護士
牧口準市
主文
一 原告佐藤敬治、同岩田一男、同賀川正昭、同古田俶子、同千葉孝信、及び同株式会社エヌアイプランニングの被告に対する別紙確認債権目録債権金額欄記載の各債権金額の支払義務がいずれも存在しないことを確認する。
二 被告は、原告佐藤敬治に対し五万九九四五円、同賀川正昭に対し一八五円、同古田俶子に対し三三万三九九二円及びこれらに対する平成四年四月一一日から各支払済みまで年五分の割合による金員、同千葉孝信に対し六九〇七円、同今野猛に対し一三六万二七二〇円、同株式会社エヌアイプランニングに対し四九万七八三二円及びこれらに対する平成四年一〇月七日から各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
三 原告岩田一男と被告間の加入電話契約(加入番号<略>)が存在することを確認する。
四 原告岩田一男の被告に対する右加入電話契約に基づく平成四年四月分及び同年六月分ないし平成五年六月分の電話料金二万一五二〇円の支払義務が存在しないことを確認する。
五 原告清水功の請求及び同今野猛のその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用はこれを五〇分し、その四を原告清水功の、その余を被告の各負担とする。
七 この判決は第二項に限り仮に執行することができる。
但し、被告が金一三〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第一 請求
一 主文第一項と同旨。
二 被告は、別紙請求金目録記載の各原告に対し、同目録請求金額欄記載の各金員及びこれらに対する原告佐藤敬治、同賀川正昭、同古田俶子及び同清水功については平成四年四月一一日から、原告千葉孝信、同今野猛及び同株式会社エヌアイプランニングについては同年一〇月七日から各支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
三 被告は、原告清水功に対し、三〇万円及びこれに対する平成四年四月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 主文第三項と同旨。
五 主文第四項と同旨。
六 訴訟費用は被告の負担とする。
七 第二項及び第三項について仮執行宣言。
第二 事案の概要
本件は、被告からダイヤルQ2通話料及び情報料を請求された原告らから、被告に対して、各料金の支払義務がないことの確認及び既に支払ったダイヤルQ2通話料及び情報料の不当利得返還請求、原告清水から、各料金の請求に際し被告が脅迫的な言辞を用いたことによる慰謝料請求、さらに、原告岩田から、ダイヤルQ2通話料及び情報料の不払いを理由とする加入電話契約の解除は許されないとして、右加入電話契約の存在確認及び通信停止措置がとられていた期間の電話料金の支払義務の不存在確認の請求がそれぞれなされた事案である。
一 争いのない事実等
1 当事者
被告は、NTTの通称で国内電気通信事業及びそれに付帯する業務その他を行う株式会社である。
原告らは、いずれも被告との間で加入電話契約を締結しており、その電話番号及び取扱局は別紙加入電話目録記載のとおりである。
2 被告の請求等
(一) 被告は、原告らの本訴提起前、原告らに対し、ダイヤルQ2の利用に関する通話料及び情報料並びにそれらの消費税として、別紙確認債権目録の債権金額欄記載の各金員の支払をそれぞれ請求した(但し、原告佐藤についてはダイヤルQ2情報料及びその消費税のみ)。
(二) 被告は、原告らの本訴提起前、原告らに対し、ダイヤルQ2の利用に関する通話料及び情報料並びにそれらの消費税として、別紙請求金目録の請求金額欄記載の各金員の支払を請求し、右各原告らからそれぞれ同額の各金員の支払を受けた(但し、原告佐藤及び同千葉についてはダイヤルQ2通話料及びその消費税のみ)。
(三) なお、原告らについての被告請求額、原告請求額、請求内訳、請求期間等の詳細な内訳は、別紙原告請求額等内訳表記載のとおりである。
そのうち、原告今野については、利用明細の記載が現存しないため、一般通話料とダイヤルQ2通話料及び情報料、さらにはダイヤルQ2通話料と同情報料とを分計できない。
原告株式会社エヌアイプランニング(以下「原告エヌアイプランニング」という。)についても、平成二年一一月分から平成三年六月分及び平成四年一月分の一部については利用明細の記録が現存しないため、一般通話料とダイヤルQ2通話料及び情報料とを分計できないが、右期間におけるダイヤルQ2通話料及び情報料の合計額は、別紙原告請求額等内訳表記載のとおりである。
(四) また、被告は、本件訴訟において、別紙確認債権目録記載の債権金額欄記載の金員のうち、情報料部分については、請求しない旨陳述した。
3 ダイヤルQ2の仕組み
(一) ダイヤルQ2とは、電話回線を使用した有料情報サービスであり、情報提供業者(以下「IP」という。)が、被告から「0990」で始まる一〇桁の電話番号を与えられ、利用者がIPのその電話番号に電話を掛けることによりIPから電話による情報提供を受けることができるものである。
(二) ダイヤルQ2を利用するには、被告に対するダイヤル回線使用による通話料のほか、IPに対する情報料(三分一〇円から三〇〇円)を必要とする。被告は、右通話料を回収することはもちろん、右情報料についても当該電話加入契約者(以下「加入者」という。)からIPに代わって回収し、回収代金から回収代行の手数料(月額一万七〇〇〇円の固定料と情報料の九パーセント)を取得している。
(三) 被告は、平成元年五月に、郵政大臣に日本電信電話株式会社法(以下「法」という。)一条二項に規定された「付帯する業務」としてダイヤルQ2の業務の届出をした上、同年六月、電話サービス契約約款(以下「約款」という。)一六二条ないし一六四条を認可を得ずに追加して、同年七月にダイヤルQ2サービスを開始した。ダイヤルQ2の情報内容は、ニュース、株式情報、野球・スポーツ、競馬、占い、音楽、英会話、アダルト番組、パーティーライン、ツーショット等様々なものがある。
(四) 約款一六二条は、「有料情報サービスの利用者(その利用が加入電話等からの場合はその加入電話等の契約者とします。)は、有料情報サービスの提供者に支払う当該サービスの料金等を、当社がその情報提供者に代わって回収することを承諾していただきます。」と規定しており、約款一六三条には、情報料について、ダイヤル通話料に含めて料金月ごとに集計の上加入者に請求する旨定められている。
また、約款一一八条は、通話料について、「契約者は、契約者回線から行った通話(その契約者回線の契約者以外の者が行った通話を含みます。)について、約款一一三条の規定により測定した通話時間と料金表第一表第二の規定に基づいて算出した料金の支払いを要します。」と規定している。なお、被告は、電気通信事業法(以下「事業法」という。)九条に基づく郵政大臣の許可を受けた第一種電気通信事業者であり、同法三一条に基づき、電気通信役務に関する料金その他の提供条件について約款を定め、この約款は郵政大臣の認可を受けたものである。
4 原告岩田の加入電話契約の存在確認請求及び電話利用停止措置中の電話料金の支払義務の不存在確認請求について
(一) 原告岩田は、平成三年三月ころ、被告厚木支店との間で、加入電話契約(加入電話番号<略>)を締結した。
(二) 右加入電話は、原告岩田の次男である訴外Aが使用していた。
(三) 原告岩田は、平成三年一〇月七日、被告から、平成三年七月分ないし九月分の電話料金として、ダイヤルQ2情報料一二六万九二三七円、同通話料四三万一一四六円、その他料金五四六〇円の合計一七〇万五八四三円を請求された。
(四) 原告岩田は、被告に対し、ダイヤルQ2料金の支払を拒否し、通常の通話料金のみを支払う旨通知し、平成四年二月一〇日、通常の通話料として計算した五九一三円を被告に送付したところ、被告からはダイヤルQ2料金の請求権があることを理由に返却された。
(五) 被告は、原告岩田の承諾を得ずに、平成三年八月二六日から、原告岩田の加入電話を発信停止にし、平成四年三月二二日ころからは着信停止にして、加入電話の一切の利用を停止した。
(六) 被告は、原告岩田に対し、平成五年八月七日、前記電話利用停止後の平成四年四月分及び同年六月分ないし平成五年六月分の電話料金二万一五二〇円の支払がないことを理由に、約款に基づき加入電話を解除する旨意思表示をした。
二 当事者の主張
別紙当事者の主張記載のとおり
三 争点
1 本件情報料についての債務不存在確認の利益
2 ダイヤルQ2情報料の支払義務
3 ダイヤルQ2通話料の支払義務
4 ダイヤルQ2利用に関する事実関係およひ利用状況
5 不当利得返還請求の成否
6 原告岩田の加入電話契約の存在確認及び通話停止期間中の回線使用料の債務不存在確認
7 原告清水の損害賠償請求の成否
第三 争点に対する当裁判所の判断
一 本件情報料についての債務不存在確認の利益
被告が、原告らの本訴提起前、原告らに対し、前記第二の一2記載のとおり、別紙確認債権目録記載の債権の種類のうちダイヤルQ2情報料を含む本件電話料金等を請求していたことは当事者間に争いがなく、また、被告の主張も原告らがIPに対し右情報料債務を負担するものでないことまで認める趣旨ではなく、現に被告は本訴においてなお原告らのIPに対する情報料支払義務の存在を主張しているのであるから、被告が本訴において、右情報料部分についてIPの代行回収者としてこれを請求しない態度を表明したからといって、将来紛争が惹起する可能性は否定できない。したがって、原告らには、被告に対し右情報料部分について債務の不存在確認を認める訴えの利益があるというべきである。
二 ダイヤルQ2情報料の支払義務
1 情報提供利用契約は、利用者がIPの提供情報番組に電話を掛け、情報サービスの利用を開始することによって成立する。具体的には、電話がつながり、ダイヤルQ2契約がIPに義務付けている事項の告知、すなわち、情報サービスが有料であること並びにその料金額及び提供者名の告知がIPによってなされた後、利用者が電話を切らずに情報サービスの利用を開始した時点で、利用者IP間に右契約が成立すると解すべきである。
ところが、加入者に無断でダイヤルQ2が利用された場合には、加入者ではなく、右利用者が情報提供利用契約の当事者であり、右利用者によるダイヤルQ2利用にかかる情報料債務を加入者が負担する根拠はない。情報提供契約が、利用者とIPとの二当事者間で成立するものであることに鑑みれば、加入者がIPに対して情報料債務を負担するのは、加入者自らがダイヤルQ2を利用するか、又は利用者によるダイヤルQ2利用に対して加入者が承諾をした場合でなければならない。
約款一六二条は、「有料情報サービスの利用者(その利用が加入電話等からの場合はその加入電話等の契約者とします。)は、有料情報サービスの提供者に支払う当該サービスの料金等を、当社がその情報提供者に代わって回収することを承諾していただきます。」と規定し、被告がIPに代わって情報料を回収する相手が加入者となることを明示している。しかし、約款が被告と加入者との関係を規律するものであることに鑑みれば、たとえ加入者が情報提供契約の当事者でない被告に対して情報料債務(回収代行)を承認したとしても、加入者とIP間に情報提供契約が成立する所以もなく、また、右回収代行の承諾が、利用者によるダイヤルQ2利用に対する承諾に当たると解することもできない。また、そもそも回収代行の承諾が情報料債務を負担する旨の承諾に当たると解することもできない。
したがって、右約款一六二条の規定は、被告とIPとの間に情報提供契約が成立し、被告がIPに対して情報料債務を負担する場合において、被告がIPに代わって情報料を回収すること、そして、被告による右回収代行について加入者が承諾することを定めたものにすぎないと解すべきであり、加入者が利用者のダイヤルQ2利用にかかる情報料債務を負担する根拠とはならない。
そして、約款一六二条が被告により一方的に定められ、本件情報料発生当時に情報料回収代行サービスの内容並びにその利用による情報料及び通話料が容易に高額になることが一般に周知徹底されておらず、加入者がダイヤルQ2利用に関して同居者等を管理指導できる状態になかったこと(甲三〇、三一、三三、三四、三六、四〇の一、弁論の全趣旨)、他人の行為によって債務を負担することは契約法上は例外的なものであることに照らせば、加入者以外の者が加入者の承諾を得ずにダイヤルQ2を利用した場合に加入者に情報料債務を発生させるには少なくともその旨が約款上明示的に表示されてなければならないと解すべきところ、本件においては、前記認定のとおり、この点について約款上は明示されていないといわざるを得ない。そして、加入者とIPとの間で情報料債務が発生しない以上は、右約款一六二条を根拠に加入者が被告に対して情報料の回収に対して支払義務を負うとすることはできない。
もっとも、IP標準約款六条には、「本サービスの利用者(その利用者がNTTの提供する加入電話等からの場合はその加入電話等に係るNTTとの契約者をいいます。以下同じとします。)は前条の規定に基づいて算定した料金の支払いを要します。」旨規定されているが、右規定は、IPと情報提供契約の関係に入った者を拘束すると考えることはできるものの、加入者以外の者が加入者の承諾を得ずにIPとの間でダイヤルQ2を利用した場合に、加入者が、右標準約款の適用を受けるものと解することはできない。
以上によれば、加入者である原告らは、同居人又は下宿人が原告らの承諾を得ずにダイヤルQ2を利用した場合、利用者に発生した本件情報料債務を負担せず、その支払義務を負わないと解するのが相当である。
2 原告らは、さらに第一に創設手続における無認可及び契約内容とする意思を推定するに足りる状況の不存在を理由に約款一六二条が無効である旨、第二に被告の回収代行業務が弁護士法七二条に違反する旨それぞれ主張する。
この点は、本件事案において原告ら自ら又は同人らの承諾を受けた第三者がダイヤルQ2の通話をしたと認められ、したがって原告らがIPに対し本件情報料債務を負担していると判断されたとしても、右情報料につき被告の回収代行権を否定する論拠となり得ることから、その当否につき検討の必要があるので、次に判断する。
しかし、仮に約款一六二条の制定について事業法三一条違反があったとしても、かかる形式的違法性の故をもって直ちに本件約款が私法上も無効とすることは相当ではない(認可の有無が取引約款の効力に直ちに結び付くものではない)。また、約款一六二条の規定内容を前記のとおり解する限り、当事者にとって不意打ちとなることはなく、加入者が右約款の内容を契約内容とする意思を推定するに足りる状況が存在しないとまでいうことはできない。したがって、原告らの右各主張はいずれも理由がない。
さらに、原告らは、被告の回収代行業務が弁護士法七二条に違反する旨合わせ主張するが、ダイヤルQ2が被告の電話回線を利用した上での多数かつ全国に分散している利用者及びIP間の情報提供サービスであることに照らせば、電話回線の所有者である被告において、その情報料の回収について重要な役割を担わざるを得ないとの事情も首肯できるものであり、そのために被告は、IPとの関係ではダイヤルQ2契約に基づき、加入者との関係では約款一六二条に基づいて情報料の回収代行を行っていることに鑑みれば、原告らに対する情報料の支払請求等が通常の一般通話料の請求事務とは質的に異なるものとして、同法七二条の「法律事件」に関する法律事務を「報酬を得る目的」で取り扱っているとまで認めることはできないから、原告らの右主張も理由がない。
三 ダイヤルQ2通話料の支払義務
1 約款一一八条の拘束力が妥当とされるのは、一般通話を前提とした場合における電話による通信の公益性・公共性、簡便性、迅速性に鑑み、通話料の支払義務者を加入者として一義的に確定することにより、通話料の徴収事務に要する経費を最小限に抑え、等しく低廉かつ合理的な料金体系を適用して通信役務を提供することができるとともに、他方、加入者においても、自ら占有管理する電話の利用については第三者に対してもこれを管理指導することができ、通常は加入者自らその利用料を負担する意思を有すると推定できることにある。
2 しかしながら、本件ダイヤルQ2の利用については、以下の事情が認められる。すなわち、
(一) ダイヤルQ2は、既設の電話回線を利用し、かつ、その利用を加入者のみに限定するシステムではないことから、第三者の無断利用の危険性が高い。また、情報内容についても娯楽を目的とするものも多数見受けられることから、通話時間・回数が容易に長時間・多数化し、これに伴ない、通話料も容易に高額化しやすい。また、ダイヤルQ2通話の場合、一般通話と異なり、電話を掛ける際にそれが市外電話なのか否か、市外電話としてもどれだけの長距離電話なのかが一切利用者には明らかでなく、架電によって、不測の高額な通話料を負担する危険性が高い(甲三ないし八、弁論の全趣旨)。
本件において、原告岩田の加入電話においては三か月間で四三万一一四六円、同古田のそれにおいては二か月間で一五万二三三六円、同千葉のそれにおいては二か月間で一一万八二四三円もの高額な通話料がそれぞれかかったとして被告から同額の通話料の請求を受けていることからもこのことは首肯できる(別紙「原告請求額等内訳表」の該当原告部分参照)。
(二) それにもかかわらず、本件情報料及び通話料発生当時において、情報回収代行サービスの内容並びにその利用による情報料及び通話料が容易に高額となることが一般に周知徹底されておらず、原告ら自身も右事実を認識していなかった。そのため、原告らは同居の家族又は下宿人らのダイヤルQ2利用について適正な管理指導をできる状況にはなかった(甲三〇、三一、三三、三四、三六、四〇の一、弁論の全趣旨)。
(三) 被告は、平成元年六月に約款一六二条ないし一六四条を追加して、同年七月から情報料回収代行サービスを開始したが、被告は、ダイヤルQ2が利用されることにより、IPから手数料として一ケ月毎に一万七〇〇〇円と情報料の九パーセントを取得し、さらに、ダイヤルQ2においては必然的に右利用に伴なうダイヤル回線が使用されることからダイヤル通話料をも取得することになる。したがって、ダイヤルQ2の創設は右通話料の増収をも目的としていたと認められ、情報料は、それに伴なって生じる通話料と密接な関係にある。また、これを利用者の側から見れば、ダイヤルQ2においては、情報の授受がある限り通話料が必然的に伴なうものであり、利用者は情報料と通話料の両方を必ず支払わなければならないだけでなく、Q2利用の際に冒頭で行われる利用者への料金ガイダンスにおいても通話料と情報料が区別されずに告知され、さらに、被告の内部においてはダイヤルQ2通話料と情報料とを分計できていても、加入者である原告らに対しては両者を区別することなく請求されており、また、一部については被告は現在においても通話料と情報料とを分計できないことを認めている(佐藤証言、弁論の全趣旨)。
3 以上のようなダイヤルQ2の実態、当時の一般の加入者が置かれていた状況、さらには通話料の性質に鑑みれば、ダイヤルQ2通話料には、公益性・公共性のある一般通話にかかる通話料とは異なり、一律に加入者に通話料を負担させるという前記約款一一八条の基本理念は妥当しないといわざるを得ず、第三者がダイヤルQ2を加入者に無断で利用したため、加入者が情報料債務を負担しない場合にまで、通話料回収の危険の負担を加入者に一方的に負担させることはできないといわなければならない。したがってダイヤルQ2を第三者が加入者の承諾なくして利用した場合の通話料については、約款一一八条は適用されないというべきである。
四 ダイヤルQ2利用に関する事実関係及び利用状況
1 事実関係
前掲二及び三において判断したところによれば、本件において原告らがダイヤルQ2利用に係る情報料及び通話料等を被告に支払うべき義務を負担するのは、ダイヤルQ2の利用に際し原告らの加入電話を原告らが自ら使用したか家族その他の同居人又は下宿人等の使用を承諾した場合に限られるところ、本件においてそのような事実があったかどうかにつき、次に検討する。
この場合、原告賀川及び同清水を除くその余の原告らは、自己の子又は下宿人らが自己の加入電話を使用してダイヤルQ2を利用したことを認めており、一方原告賀川及び同清水は、同人らはもとよりその同居の家族の誰もダイヤルQ2を利用したことはないとしてこの点を争っているので、場合を分けて検討することとする。
(一) 原告賀川及び同清水を除くその余の原告らについて
(1) 原告佐藤について
ダイヤルQ2の利用期間は、平成三年六月一五日から同年九月五日までである。この利用は、同原告の次男のBがした。そのころ、同人は北海道電子専門学校の一年生で、親元を離れ、札幌市<番地等略>の部屋を借りて一人で生活していた。その部屋には、同原告が加入者となっている電話が設置されており、この電話を使用して本件ダイヤルQ2が利用された。右次男がダイヤルQ2を利用していたのを同原告が知ったのは、その妻が右次男の部屋を平成三年九月上旬に訪れた際、被告から同原告宛の多額の電話料の請求書を見て驚き、右次男に問い質して同人からダイヤルQ2の利用を打ち明けられた時である。同原告は、その時までダイヤルQ2という制度すら知らなかった。同原告は、右次男がそれ以上ダイヤルQ2の利用ができないようにするため被告に申し入れ、平成三年九月一三日ころにダイヤルQ2の利用廃止手続をとった(甲三一、乙一四の一及び弁論の全趣旨により以上の事実を認める。)。
これらの認定事実によれば、同原告の次男が本件ダイヤルQ2を利用したことが明らかであり、またこれにつき同原告の承諾がなかったことも明白である。そして右認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすれば、同原告については被告に対する本件ダイヤルQ2情報料及び通話料等の支払義務はないというほかはない。
(2) 原告岩田について
ダイヤルQ2の利用期間は、平成三年六月一三日から同年八月二六日までである。その利用は同原告の次男のCがした。そのころ同人は、東海大学一年生で、入学した同年四月から神奈川県厚木市<番地等略>を借りて一人で生活していた。その部屋には同原告が加入者となっている電話が設置されており、その電話を使用して本件ダイヤルQ2が利用された。右次男がダイヤルQ2を利用していたことを同原告が知ったのは、平成三年一〇月七日、被告厚木支店から同原告宛に電話があり、平成三年六月ないし八月使用の電信電話料金が未納で、右次男に請求しても支払がないから同原告に支払ってほしい旨求めてきたことによる。同原告はそれまでダイヤルQ2がどういう制度であるか知らなかった(甲三〇、乙一四の二及び弁論の全趣旨により以上の事実を認める。)。
これらの認定事実によれば、同原告の次男が本件ダイヤルQ2を利用したことは明らかであり、またこれにつき同原告の承諾がなかったことも明白である。そして右認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすれば、同原告については被告に対する本件ダイヤルQ2の情報料及び通話料等の支払義務はないというほかはない。
(3) 原告古田について
ダイヤルQ2の利用期間は、平成三年五月三〇日から同年七月四日までである。その間の同原告の生活状況についてみるに、当時仕事をしていた夫と主婦でパートに出ていた同原告と長男Dの三人が札幌市<番地略>に同居しており、当時右長男は専門学校生であって比較的時間があった。同原告は自宅の居間にプッシュホン式の電話一台を設置していて、同原告が加入していた。同原告が本件ダイヤルQ2の利用を初めて知ったのは、被告から平成三年六月ころに五〇万円もの電話料金の請求があり、同原告は驚き夫に被告の月寒営業所に行ってもらい、問い合わせて知らされたことによる。それまで同原告はダイヤルQ2の制度自体知らなかった。同原告は長男に確認したところ、長男はダイヤルQ2の利用を認めた。その利用時間の大半は昼間であって、同原告や夫はほとんど留守の時間帯であった。同原告は速やかにダイヤルQ2の利用廃止手続をとった(甲三三、乙一四の五及び弁論の全趣旨によって、以上の事実を認める。)。
これらの事実によれば、本件ダイヤルQ2を利用したのは同原告の長男であることが明らかであり、またこれにつき同原告の承諾がなかったことも明白である。そして右認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすれば、同原告については被告に対する本件ダイヤルQ2情報料及び通話料等の支払義務はないというほかはない。
(4) 原告千葉について
ダイヤルQ2の利用期間は、平成三年九月三〇日から同年一一月一日までである。その間の同原告の生活状況についてみるに、札幌市<番地略>に妻、長男、長女(当時中学一年生)、妻の母と同居しており、同原告とその妻も昼間仕事に出ていて夕方まで不在であり、長男も専門学校に通っていて昼間は留守をしていた。同原告宅には同原告が加入しているダイヤル式の電話が一台居間に設置されており、長女の部屋は居間の隣で、ドアは引き戸なので、長女が電話機の受話器だけ部屋に引き入れて架電することがあった。同原告が初めてダイヤルQ2の利用を知ったのは、平成三年一〇月分の被告からの電話料金の請求書が送られてきてその金額が通常の月よりもかなり高額であったことから、被告の北営業所に問い合わせて知らされたことによる。同原告は長女に確認したところ、長女は本件ダイヤルQ2の利用を認めた。それまで同原告はダイヤルQ2の存在を知らなかった。被告からダイヤルQ2の利用廃止制度を教えられ、平成三年一一月ころその措置を被告にとってもらった(甲三四、乙一九の二及び弁論の全趣旨により以上の事実を認める。)。
これらの事実によれば、本件ダイヤルQ2を利用したのは同原告の長女であることが明らかであり、またこれにつき同原告の承諾を得ていなかったことも明白である。右認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすれば、同原告については被告に対する本件ダイヤルQ2情報料及び通話料等の支払義務はないというほかはない。
(5) 原告今野について
ダイヤルQ2の利用期間は、平成三年四月一三日から同年五月二六日までである。その利用は同原告の次男のEがしていた。同人は平成三年札幌の北海道理容美容専門学校を卒業する直前に、札幌市<番地等略>というアパートに部屋を借りて一人暮らしを始めた。同原告は、右次男のためそのアパートに電話を同原告加入名義で設置した。同原告が初めてダイヤルQ2の利用を知ったのは、平成三年五月下旬に被告の白石営業所の担当者から同原告宅に電話があり、同年五月分の電話料金が一〇〇万円近くの高額になっているので、同原告ら右次男の親が同営業所に来てもらいたい旨求められたことによる。同原告が次男に確認したところ、次男は本件ダイヤルQ2の利用を認めた。同原告はその時までダイヤルQ2の制度の実際の仕組を知らなかった。同原告は、被告の右営業所の電話がきて数日経ったころ妻と次男を伴い、同営業所を訪ね、ダイヤルQ2について初めて詳しい説明を受け、利用停止の方法があることも教えられたので、その場で利用停止の措置をとってもらった(甲三六及び弁論の全趣旨により以上の事実を認める。)。
これらの事実によれば、本件ダイヤルQ2の利用は、同原告の次男がしたものであることは明らかであり、またこれにつき同原告の承諾を得ていなかったことも明白である。右認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすれば、同原告については被告に対する本件ダイヤルQ2情報料及び通話料等の支払義務はないというほかはない。
(6) 原告エヌアイプランニングについて
同原告は、不動産賃貸業や宿泊施設の賃貸・経営等を目的とした会社であるが、札幌市<番地略>に「Lハイツ」という五階建のマンション(平成元年三月新築)を所有し、学生や予備校生を対象とした下宿業を営んでいる。そのマンションには、入居者専用として原告の加入名義の三本の電話回線が設置されており、これらの電話回線を利用して本件ダイヤルQ2が利用された。利用期間は平成二年九月二六日から平成四年三月二五日までである。同マンションはワンルーム形式の下宿であり、部屋数は二八室ある。入居者の構成は、予備校生、高校生が主で、平成四年一月当時、入居者数は二七名、うち高校生が一〇名、予備校生が一二名であった。各部屋のすべてに電話機が設置されており、三本の電話回線を交換機を通して各部屋に分配する形式となっているが、被告との間では「ダイヤルイン」サービス契約を締結していて、各部屋の電話に個別の電話番号が付されている。外部から入居者に電話をする場合は各部屋の個別の番号をダイヤルすることによって、三本の回線が空いている限り、直接各部屋に通じる仕組になっている。また、各部屋の電話から外部に架電する場合も直接各部屋の電話機から通話することができ、通話料金は管理装置によって各部屋ごとの通話料金を累計記録するようになっている。同原告は、各月末に右料金管理装置により累計記録された各部屋の電話料金を各入居者から徴収するが、被告からの電話料金の請求は加入回線ごとに三通に分けて請求される。同原告は、右徴収金額と被告からの請求額との対照については、精算時期が異なるなどの理由から行っていなかった。同原告は、平成四年二月下旬、被告から同原告の加入電話からダイヤルQ2が利用されその料金が高額になっているとの通知を受け、初めて入居者がダイヤルQ2を利用していること及びその料金が右料金管理装置で記録されないことを知った。それまで同原告は被告から右料金管理装置によってはダイヤルQ2料金が記録されないことの説明を一切受けていなかった。同原告は、平成四年三月ダイヤルQ2の利用停止をするとともに入居者にダイヤルQ2の利用について確認したが、誰がどの程度利用したのかを特定することは困難であった(甲四〇の一ないし一三及び弁論の全趣旨により以上の事実を認める。)。
これらの認定事実によれば、同原告の入居者が同原告の加入電話を使用して本件ダイヤルQ2を利用したことが明らかであり、またこれにつき同原告の承諾がなかったことも明白である。そして、右認定を覆すに足りる証拠はない。
そうすれば、同原告については被告に対する本件ダイヤルQ2情報料及び通話料等の支払義務はないというほかはない。
(二) 原告賀川について
同原告の加入電話回線を使用して本件ダイヤルQ2が利用されたことは、証拠(甲三八の二、乙一四の四)によって認められるところ、同原告以外の他の第三者が右回線に配線を接続して同原告に無断で右回線を使用したなどの特段の事情が認められない限り、当該加入電話を使用して本件ダイヤルQ2が利用されたと推認するのが相当である。また、電話の利用を特定する手段は電話番号のみであり、実際の利用者を特定するのは困難であるのに対し、加入電話は通常加入者の占有管理下にあるという電話の特性に照らしてみれば、電話の利用者を認定する際には、特段の事情がない限り、加入者かその同居人が当該加入電話を使用したものと推認することができる。本件において、これらの特段の事情を証するに足りる証拠はない。
そこで、加入者である同原告自身がダイヤルQ2を利用したか、又は同原告が同居人による利用を承諾したかについて検討する。
被告から同原告についてのダイヤルQ2利用期間として指摘されている期間は、平成三年一一月から平成四年一月までの間である。その間の同原告の生活状況についてみるに、まず同原告の家族構成は、同原告本人、妻、長女、長男の四人家族で、当時同原告は函館製網船具株式会社札幌支社に勤務し、妻は丸井今井デパートのアルバイトをしており(朝から夕方までの勤務)、長女は医療短大の二年生で、長男は高校二年生であった。当時同原告の家族は二階建の一戸建て住宅に住み、電話機は一階の居間に一台だけ設置されていた。平成四年一月下旬、被告から電話料金の請求書が送られてきて、その中に「ダイヤルQ2情報料」という項目が入っていて、同原告はその時初めて自宅の電話からダイヤルQ2が利用されたことを知った。同原告も妻もその当時ダイヤルQ2の利用の仕方を知らなかった。同原告は長女と長男に確認したが、同人等はダイヤルQ2利用を否定した。ダイヤルQ2の利用日時をみるとほとんど全部といってよいほど土日祭日に利用されているが、利用番組名はツーショットやラブタイムファンタジー等若年者向けのものばかりである(甲三八の一、二、乙一六の四及び弁論の全趣旨により以上の事実を認める。)。
右認定事実によれば、本件ダイヤルQ2の利用番組の内容や家族の年齢、職業等に照らし、同原告がダイヤルQ2を利用したとは到底認められないし、また同原告が長男等の同居人によるダイヤルQ2利用を承諾したとも認められないから、同原告は被告に対し、本件ダイヤルQ2情報料及び通話料等の支払義務を負担しないというべきである。
(三) 原告清水について
証拠(甲三七の一及び二、三九、乙一四の六)によれば、同原告の加入する電話回線を利用して本件ダイヤルQ2が利用されたことが認められる。このような場合、原告賀川の場合と同様に、原告清水以外の他の第三者が右回線に配線を接続して同原告に無断で右回線を使用したなどの特段の事情が認められない限り、当該加入電話を使用して本件ダイヤルQ2が利用されたと推認するのが相当である。
そこで、本件につき右特段の事情の存否につき検討するに、証拠(甲三七の一及び二、三九、乙五一ないし五二の六)によれば、本件ダイヤルQ2の利用が発覚した直後、同原告の妻の調査依頼を受けた被告がその加入する電話回線の調査をした際にも異常は発見できなかったことが認められるから、右特段の事情の存在を認めることはできない。もっとも証拠(甲三七の一、三九―同原告及びその妻の陳述書)中には、本件ダイヤルQ2利用の発覚前に、同原告の電話機の調子が悪く、通話中に声が遠くなったり、混線しているような雑音が入ったり、外部から電話を掛けても呼出音が鳴らなかったりしたことがあった旨の記載部分があり、これは右特段の事情の存在を窺わせるともいえないことはないが、右記載部分は客観的裏付けを欠き直ちに信用することはできない上に、仮にこのような事実があったとしても、被告による右調査結果と対比して見れば、この事実が右特段の事情の存在と結び付くとは直ちにいえないから、結局右事情の存在を認定することはできず、右推認を相当とするというほかはない。
そして、原告賀川の場合と同様に、本件ダイヤルQ2の利用に際し原告の加入電話が利用されたと認められるのであれば、特段の事情がない限り、加入者である同原告かその同居人が当該加入電話を使用したものと推認することができるというべきである。
そこで、検討するに、証拠(甲三七の一及び二、乙一四の六、一六の六)によれば、次の事実が認められる。
同原告の場合、本件ダイヤルQ2の利用期間は、平成三年八月二八日から同年一〇月一八日までである。その間の同原告の生活状況についてみるに、家族構成は、同原告、妻、長女の三人家族で、当時同原告は写植の会社に勤務しており、朝八時前に自宅を出て、帰りはほとんど残業の関係で午後九時を過ぎるような日常であった。妻は無職で家事、育児に専念していて、長女は当時満四歳で幼稚園に通っていた。住まいは民間のアパートで、部屋数は三つあり、電話機は一台居間に置かれていた。同原告ら三人は普段洋室で寝ていたが、同原告の帰宅が深夜になるような場合は、同原告のみが和室で寝ることもあった。平成三年一〇月分の電話料金として被告から七万円以上の請求があったので、同原告の妻は被告の営業所に問い合わせたところ、本件ダイヤルQ2の利用がされていることがわかった。妻は、同人はじめ家族の誰もダイヤルQ2を利用していないとの認識から納得できず、被告に電話機や配線の調査を依頼したが、結果は異常なしとのことであった。しかし、妻はなお納得できず、北海道警察本部生活課に届けて捜査を依頼した。道警生活課の捜査官は、妻と同原告らに事情を訪ね、さらに同原告の電話の配線状態も調査したが、その段階ではすでに被告が同原告の電話配線を新しく取り替えた後だったので、配線の調査はできず、捜査は終了した。ダイヤルQ2の利用時間帯をみるに深夜(午後一〇時以降午前四時までで、午前零時過ぎの利用が目立っている。)ダイヤルQ2を利用して提供を受けた情報中には、一件のみ医療・健康情報があるが、他はほとんどいわゆるアダルト番組である。
以上認定の事実によれば、まず長女がダイヤルQ2を利用したことはその年齢に照らしてありえず、次に妻については、その可能性は全くないとはいえないが、利用時間帯が深夜に集中している点に不自然性があり(妻が利用したとすれば、同人には時間的余裕があるから、深夜のみ利用する必要性はないし、幼い子の育児の必要から深夜に起き続けることは困難である。)、しかもダイヤルQ2の利用が分かってから、執拗に被告や警察に調査や捜査を依頼していることからも、妻による利用の可能性は極めて低いというべきである。そこで、同原告自身について検討するに、同原告の帰宅時間は遅く、午後九時過ぎになることが多いから、ダイヤルQ2を利用するとすれば帰宅後の時間帯にならざるを得ないことを斟酌すると、本件ダイヤルQ2の利用時間帯が深夜に集中していることと符合している上、その時間帯には妻や長女は就寝している場合が多いであろうから、ダイヤルQ2の利用に障害はないとみられるのみならず、仕事上の疲れやストレス等の解消等のためダイヤルQ2を利用したことも考えられることから、同原告自身は否定するものの、同人による本件ダイヤルQ2の利用の可能性は高いというべきである。そうすると、他に第三者による利用を窺わせる事情も見受けられない本件においては、結局同原告自身が本件ダイヤルQ2を利用したと推認するのが相当である。
したがって、同原告は被告に対し、本件ダイヤルQ2情報料及び通話料等の支払義務があるというべきである。
2 各原告のダイヤルQ2の利用状況
(一) 各原告の加入電話からは、以下に示す書証番号のとおり、利用者によって各証書の「通話開始年月日」「通話開始時間」に「通話時間」の間「ダイヤルQ2番組番号」(同番号と具体的情報提供者の関係は乙一六の一、二、四、五及び六並びに五四の一、五五の一、五六の一のとおり)に電話が掛けられ、ダイヤルQ2通話料及び情報料として原告請求額等内訳表記載の被告請求額のとおり要したことが認められる。
原告佐藤
乙一四の一、一六の一
同岩田
乙一四の二、一六の二
同賀川
甲三八の二、乙一四の四、一六の四、五四の一
同古田
乙一四の五、一六の五、五五の一
同清水
甲三七の二、乙一四の六、一六の六、五六の一
同千葉
乙第一九の二
(二) 原告エヌアイプランニングについては、ダイヤルQ2情報料と同通話料とを分計できるものについては証拠(乙第一九の三、五七の一、五八の一、五九の一)によって、また、一般通話料とダイヤルQ2通話料及び情報料さらにはダイヤルQ2通話料と情報料とを分計できない期間のものについては当事者間に争いがないものとして、それぞれ原告請求額等内訳表記載の被告請求額のダイヤルQ2通話料及び情報料(但し、右両者の分計は不可)がかかったことが認められる。
(三) 原告今野については、同人が通話料などの支払をしたことから、被告の内部規程に基づき支払一か月後にコンピュータ記録が抹消され、利用明細の記録が存しない。しかしながら、証拠(甲三六)及び弁論の全趣旨によれば、同今野の次男Eが、本訴請求期間(平成三年五月分及び六月分)中、ダイヤルQ2及び一般通話を利用したことが認められ、その間のダイヤルQ2通話料、情報料及び一般通話料を分計することができないものの、全てをダイヤルQ2通話料及び情報料と認定するのは相当でないから、一般通話料を推計の方法により算定し、電話料金総額から右推計に係る一般通話料を控除した金額をもってダイヤルQ2通話料及び情報料の合計と認定するのが相当である。そして、同原告の一か月当たりの一般通話料を推計すると、同原告がダイヤルQ2を利用していない平成三年四月分(平成三年四月二日から同月一五日の期間)の一般通話料は一一二〇円であるから、これを日数の一四で除すことにより一日当たりの平均通話料は八〇円と算出され、この平均通話料から前記本訴請求期間の一般通話料を推計すると、平成三年五月分は右平均通話料に三一日を乗じ、また、同年六月分は三〇日を乗じて、それぞれ二四八〇円、二四〇〇円と算定できる。そして、前記本訴請求期間中の電話料金総額(平成三年五月分が九〇万一七七〇円、同年六月分が四六万五八三〇円)から、右推計に係る一般通話料をそれぞれ控除すると、平成三年五月分が八九万九二九〇円、同年六月分が四六万三四三〇円、合計額は一三六万二七二〇円となり、右金額が本訴請求期間におけるダイヤルQ2通話料及び情報料の合計と認められる。
五 不当利得返還請求の成否
1 別紙請求金目録記載の各原告らは、同目録「請求金額」欄記載の各金員につき、これを被告の不当利得であるとしてその返還を被告に求めているところ、前記判断によれば、右原告らのうち、原告清水を除くその余の原告(但し、原告今野については、前記四2(三)で既に述べたとおり、推計による一般通話料を控除した一三六万二七二〇円が被告の不当利得に当たる。)は、被告に対し、本件ダイヤルQ2情報料及び通話料並びにこれらの消費税につき支払義務を負わないから、これにつき右原告らから被告に対して支払われた(当事者間に争いがない。)右「請求金額」欄記載の各金員は、法律上の原因を欠く給付に該当し、同各金員につき被告の不当利得が成立する。また、原告清水については、右情報料及び通話料等について被告に対し支払義務があるから、右料金等について被告に支払われた金員は、被告の不当利得を構成しない。
もっとも、被告は別紙当事者の主張五2記載のとおり、本件ダイヤルQ2通話料については約款一一八条の適用があるから不当利得は成立せず、他方右情報料については被告の独自の利得はなく、また現存利益もないから、いずれについても被告の不当利得による返還義務はない旨主張する。
しかしながら、ダイヤルQ2通話料について約款一一八条の適用のないことは、前記三において既に述べたとおりであるから、被告の右主張は失当であり採用できず、他の右主張については以下判断する。
2 被告に利得がない旨の主張について
(一) 被告は、IPが提供した情報の対価の受領を代理しただけであって、自己に利得を保持していないから、原告らは真の利得者である利用者に対し、不当利得返還請求をすべきである旨主張する。
しかしながら、弁論の全趣旨によれば、被告のダイヤルQ2情報料回収の実態は、その回収代行の有無にかかわらず、被告がIPに情報料を支払い、ダイヤルQ2利用料をさらに通話料と情報料に分計表示するようになってからも、電話加入者に対しIPの名前を明らかにしないで、被告として請求していることが認められるから、このような実態に照らせば、被告は実質的に情報料債権の債権者として電話加入者である原告らに対しこれを請求し、弁済を受けていると解さざるを得ない。また、このように解することが前記三において認定したダイヤルQ2の実態に符合するというべきである。
そうすると、被告には独自の利得があるというべきであるから、被告の右主張は理由がない。
(二) 被告は、利用者はIPに直接情報料を支払わず、契約者である加入者にその立替払を依頼したものであるから、仮に加入者が利用者にダイヤルQ2の利用を承諾しておらず、したがって立替払契約が有効に成立していないとしても、利用者とIP間の対価関係が存在しているのであれば、加入者である原告らは被告に不当利得返還請求ができず、利用者との間で精算すべきである旨主張する。
しかし、原告らは利用者のため立替弁済しているのではなく、自己の債務として被告に支払ったものであるから、この主張は明らかに失当である。
(三) 被告は、加入者である原告らのIP(その代理人たる被告)に対する情報料の支払は、利用者のIPに対する情報料債務を第三者弁済したとみられるから、IP及びその代理人たる被告には利得がない旨主張する。
しかしながら、既に述べたとおり、原告らは、加入者である原告ら自身の債務として被告から請求されてこれを支払ったものであるから、被告の右主張も理由がない。
3 被告に現存利益がないとの主張について
被告は、別紙請求金目録記載の各原告らからダイヤルQ2情報料を、同目録「請求金額」欄記載の金額の限度で回収しているが、それと同額の金員を既に当該利用に係る各IPに全額支払済みであるから、被告に利得は現存しない旨主張する。
しかしながら、被告が原告らから回収済みの情報料を利用に係るIPに支払ったとしても、被告が原告らの不当利得返還請求を受け、結果としてこれに応ぜざるを得なくなり、回収できないことが事後に判明した場合は、被告とIP間のダイヤルQ2契約第一八条二項によれば、被告は支払先のIPに対し当該料金相当額を返還請求できることになっている(乙一一)から、被告はなお右債権の価値に相当する利益を有しているというべきである(最高裁判所平成三年一一月一九日第三小法廷判決・民集四五巻八号一二〇九頁参照)。右債権の価値は債務者である当該IPの資力等に左右されるところ、特段の事情がない限り、その額面金額に相当する価値を有するものと推定すべきであるが、本件において右特段の事情の主張立証はない。
よって、被告は前記原告らが被告に支払った本件ダイヤルQ2情報料についても、右原告らに対し不当利得として返還すべき義務があるというほかはない。
六 原告岩田の加入電話契約の存在確認及び通話停止期間中の回線使用料の債務不存在確認
前述したとおり、原告岩田には、ダイヤルQ2通話料及び情報料の支払義務がない。そして、被告による加入電話の利用停止措置は、右ダイヤルQ2通話料及び情報料の支払がないことを理由になされたものであることが認められるところ(甲一六の一、一七、二〇の一、三〇、弁論の全趣旨)、支払義務のない料金の不払いを理由とする利用停止措置は被告の債務不履行となるから、それにもかかわらず、右利用停止期間中の原告岩田の電話利用を前提とした基本料金等の対価の請求をすることは信義則に反し許されない。
そうすると、被告による加入電話契約の解除は、本来請求できない基本料金等の不払いを理由とするものであり、原告岩田に何らの債務不履行がないにもかかわらずなされたのであって、右解除は無効である。したがって、原告岩田の加入電話契約の存続の確認を求める訴え、及び、右利用停止期間中である平成四年四月分及び同年六月分ないし平成五年六月分の電話料金の支払義務が存在しないことの確認を求める訴えはいずれも理由がある。
七 原告清水の損害賠償請求の成否
前記認定のとおり、原告清水は、その利用に係るダイヤルQ2情報料及び通話料を負担すべきであるから、これについて被告のなした請求行為は権利行使に当たる。しかしながら、権利行使といえども社会的妥当性を欠き、これによって生じた損害が社会生活上一般的に被害者と主張されている原告の清水において受忍すべき程度を超えると判断されるべき事実が認定されれば、被告の同原告に対する不法行為が成立するところ、本件全証拠によっても右事実を認定するには足りない(被告によるダイヤルQ2情報料回収請求を拒否した場合、暴力団とおぼしきIPから強硬な取立てがされてもやむを得ないとの被告の担当者の発言があった旨の甲三七の一及び三九の記載部分は、これを否定する乙五一及び五二の一ないし六の記載部分と対比してたやすく信用できない。)。
したがって、被告の請求行為は何ら不法行為を構成するものではなく、原告清水の損害賠償請求は理由がない。
第四 よって、原告佐藤、同岩田、同賀川、同古田、同千葉及び同エヌアイプランニングの各支払義務の不存在確認請求、原告佐藤、同賀川、同古田、同千葉及び同エヌアイプランニングの各不当利得返還請求、並びに、原告岩田の加入電話契約の存在確認請求と平成四年四月分及び同年六月分ないし平成五年六月分の電話料金の支払義務の不存在確認請求はいずれも理由があるからこれを認容し、同今野の不当利得返還請求は主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、原告清水の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項を、仮執行免脱宣言について同法一九六条三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官一宮和夫 裁判官堀内明 裁判官田中芳樹)
別紙確認債権目録等<省略>
別紙当事者の主張
一 争点1(本件情報料についての債務不存在確認の訴えの利益)
1 被告の主張
原告らのダイヤルQ2情報料及びその消費税相当額についての本訴における債務不存在確認請求は、約款第一六二条一項但書の回収代行拒否に該当することから、被告はその回収代行権を行使しない。従って、原告らの右請求は訴えの利益がない。
2 原告らの主張
被告が、原告らに対し、ダイヤルQ2情報料債務を含むダイヤルQ2にかかる電話料金等を請求していたことは当事者間に争いがなく、また、被告は、原告らが本件情報料債務を負担するものではないことまで認めておらず、将来の紛争の可能性が残されている。したがって、原告らは被告に対し、ダイヤルQ2情報料債務の不存在確認を求める訴えの利益がある。
二 争点2(ダイヤルQ2情報料の支払義務)
1 被告の主張
ダイヤルQ2の利用者と加入者が異なる場合においても、後述の法律関係に照らし、加入者にはダイヤルQ2情報料の支払義務がある。
(一) ダイヤルQ2の当事者間の法律関係
(1) IPと利用者との関係
IPと情報提供を受ける利用者との間には、被告が所有する電話網を利用してIPが情報を提供し、利用者がその情報料を支払うことを内容とする売買契約に類似する無名契約(有料情報提供利用契約)が存在する。右契約は、利用者が特定の加入者の電話番号の電話機から、特定のIPの電話番号に架電することによって成立する。
右契約の特徴は、①被告の電話回線を利用すること、②通信内容は通信の秘密により、被告もこれを侵害してはならないこと、③情報の授受は電話の利用によるため、当事者の確定は電話番号によるしかなく、加入電話は特定できても利用者の特定は不可能なこと、④IPと利用者は多数かつ全国に分散しているため、情報料の回収及び支払を個々に行うことが困難であるから、一定のシステムに従って画一的・集団的に行わざるを得ないこと、⑤右③及び④の事情から、加入電話からの架電の場合は、利用者が加入者と異なっていても、加入者に料金を請求せざるを得ないこと、⑥電話回線の所有者である被告が情報料の回収につき重要な役割を担わざるをえないこと、である。
(2) IPと被告との関係
被告とIPは、「ダイヤルQ2(情報料回収代行サービス)に関する契約書」(以下「ダイヤルQ2契約」という。)により、情報料回収代行等の契約をしている。その要点は、①IPが被告に情報料の回収代行を委託し、被告がその回収代行を行うこと、②情報料は被告の機器により測定すること、③加入電話については、その加入者に適用される料金月ごとに集計のうえ回収すること、④通常の請求手続をしたにもかかわらず、加入者が料金支払に応ぜず、料金が回収できない場合には、被告は情報料をIPに支払わないこと、である。
(3) 加入者と被告との関係
被告と加入者は、約款一六二条において、①情報料については被告がIPに代わって回収をなすものとし、加入者はその承諾をすること、②加入者の申出により回収代行を拒否できること、③情報料の請求は、ダイヤル通話料とあわせて請求すること、が規定されている。
(4) IPと加入者との関係
電話の特性に照らすと、利用者の特定は事実上不可能であるから、利用者が加入者でない場合であっても、情報料についてはダイヤル通話料と同様、加入者がその支払義務を負う。すなわち、
ア 約款一六二条一項は、利用者が加入者でない場合においても、加入者は被告による回収を承諾することと規定しており、加入者は右承諾によって、IPに対しては、利用者の情報料債務を加入者が支払うとの債務承認をなしたものである。
イ ダイヤルQ2契約八条は、「乙(IP)が利用者に提供する情報サービス等の提供条件については、契約約款を定め利用者の閲覧に供するものとする。契約約款には別表1に定める内容を盛り込むこととする。」(以下、IPにより個別に作成される契約約款を「IP約款」という。)と規定し、情報等提供者―利用者間標準約款(以下「IP標準約款」という。)を別表1として添付し、右IP標準約款六条は「本サービスの利用者(その利用者がNTTの提供する加入電話等からの場合はその加入電話等に係るNTTとの契約者をいいます。以下同じとします。)は前条の規定に基づいて算定した料金の支払いを要します。」旨規定し、加入者の支払義務を定めた。そして、右IP標準約款は、約款と一体をなすものであるから、同約款と同様加入者をも拘束する。したがって、加入者は、IPに対し情報料の支払義務がある。
(二) 約款一六二条ないし一六四条の有効性
有料情報サービスは、法一条二項の「付帯する業務」に該当し、被告は同法施行規則一条に則って郵政大臣に対し届出をした。そして、ダイヤルQ2サービスは、事業法三一条の認可対象外業務であることから、約款二条に基づき、前記一六二条ないし一六四条を同約款に追加し、各営業所及び事業所において掲示した。したがって、同約款を無効とする原告らの主張は理由がない。
(三) 被告の情報料回収代行業務の弁護士法七二条違反
(1) 法律事件性
被告は、前記(一)(1)に記載したIPと利用者間の情報提供契約の特徴に照らして、回収代行方式をやむなく採用しているのであり、また、約款一六二条一項但書において、加入者は情報料の回収代行を拒否できるものとし、さらに、IP間のダイヤルQ2契約においても、被告が通常の請求手続をしても利用者が回収に応じない場合には、情報料を支払わないこととしていることから、通常の請求手続で情報料の回収代行をしているにすぎず、「法律事件」に関する法律事務にあたらない。
(2) 報酬を得る目的
被告が、IPから得ている手数料(月額一万七〇〇〇円及び情報料の九パーセント)の算出根拠は、IPの番組ごとのデータ整備、発信、加入者に対する請求、回収、支払、処理に要する人的、機械的費用であって、利益を含むものではなく、「報酬」にあたらない。
(3) 弁護士法七二条違反の悪意(故意)の不存在
被告は、契約者に情報料支払義務があるとの考えにより情報料を請求し、回収代行しているのだから、情報料請求時及び回収時において被告に弁護士法七二条違反の悪意(故意)は存在しない。
2 原告らの主張
原告らは、ダイヤルQ2に電話を掛けていない以上、情報料についてIPとの間で何らの契約関係も成立しない。また、原告らと被告との間の約款上、IPとの間の契約の成立を擬制する条項もない。したがって、原告らは、IPに対してダイヤルQ2情報料の支払義務を負わず、その料金回収を行う被告に対しても情報料の支払義務はない。
(一)ダイヤルQ2の当事者間の法律関係
(1) IPと加入者との関係
ア 利用者がIPに対して情報料債務を負う場合でも、加入者はIPに対して何らの意思表示もしていない以上、加入者が利用者に代わってIPに対して支払義務を負うことはない。
イ IP標準約款には、利用者を加入者とみなす旨の規定があるものの、IPが実際にIP約款を定めているか疑問であるし、仮に定めていても利用者の閲覧に供されていないのみならず、仮に約款の制定・掲示がなされていても、無認可約款であるIP約款に、認可約款の場合と同様に掲示・閲覧に供するのみで加入者に対する契約上の拘束力をもたせる根拠はなく、同約款によって加入者に情報料の支払義務は生じない。
ウ 約款一六二条一項の拘束力
a 右約款は、契約当事者が被告の場合に適用されるものであるから、被告が契約当事者ではない情報提供契約には適用されない。
b 右約款は、被告が主体となって提供する電話サービス及び付随サービスに適用されるものであり、IPが主体となって提供する有料情報サービスには適用されない。
c 右約款は、IPとの間に情報提供契約が成立していることを前提に、当該契約に基づく情報料の回収を被告が行うことについて誰が承諾するかという承諾者について規定したにすぎない。
d 加入者が、債務承認の前提であるダイヤルQ2の法律行為の存在自体を知らない以上、右情報料債務の承認も有り得ない。
e 回収代行の承諾は、IPに対する情報料支払債務の承諾までも含むものではない。
(2) 加入者と被告との関係
ア 加入者とIP間に契約が成立しない以上、被告がIPの債権を加入者から回収代行できる旨の主張は前提を欠く。
イ 約款一六二条一項は、情報料の回収を被告がIPに代わって行うことについての規定であるから、IPと加入者との間の情報料債権が発生しない以上、被告の主張は前提を欠く。
(二) 約款一六二条ないし一六四条の無効
(1) 創設手続における無認可
ダイヤルQ2業務は、加入者に経済的負担を課し、従前の電話利用と異なる新たなサービスの提供であるから、法一条二項所定の「付帯する業務」ではなく、「目的達成業務」にあたり、右業務の開始には郵政大臣の認可を要し、かつ、事業法三一条一項によれば電気通信役務に関する料金その他の提供条件についての約款の制定・変更には郵政大臣の認可を要するところ、ダイヤルQ2システムは、加入者にとって新たなサービスの開始であるとともに、実質的な料金の算出方法の変更であることから、約款一六二条ないし一六四条の制定には郵政大臣の認可が必要である。また、ダイヤルQ2サービスは、約款一条二項の電話サービスに「付随するサービス」にあたるものでもない。しかるに、被告は約款一六二条ないし一六四条の制定について郵政大臣の認可を得なかったから、これらの約款は手続の適正を欠き無効である。
(2) 契約内容とする意思を推定するに足りる状況の不存在
普通契約約款に拘束力が認められるためには、消費者が当該条項を契約内容とする意思を有すると推定するに足りる状況の存在が必要なところ、約款一六二条ないし一六四条の創設については事前の開示は一切なく、創設後の開示も不十分であり、その内容も被告の回収代行を一方的に消費者である加入者に承諾させるという非慣行的な規定であり、かつ、規定の仕方も不明確で加入者に対する不意打ちとなる多大な負担を課すものであることから、消費者が当該条項を契約内容とする意思を有すると推定することはできない。約款制定にあたっての事前の開示の必要性や不意打条項禁止の原則は、創設約款が拘束力をもつための手続上の最低限の適正要件であり、本件条項はこれを充足せず、信義則上無効である。
(三) 被告の情報料回収代行業務の弁護士法七二条違反
(1) 弁護士法七二条は、①弁護士でない者が、②報酬を得る目的で、③法律事務を取扱い、またはこれらの周旋をすることを、④業とすることを、禁止している。
(2) ダイヤルQ2システムでは、被告は情報料の回収代行を行い、IPは被告に対し手数料(月額一万七〇〇〇円及び情報料の九パーセント)を支払うこととされ、被告は約款一六二条に基づき、ダイヤル通話料等とともに月々電話加入者に請求して加入者から銀行口座引落とし等の方法で支払を受けていることから、被告の情報料回収代行業務は、弁護士でない被告が、手数料を得る目的で営業として債権回収代行を行うものであり、前記①②④の各要件を充足する。
そして、回収代行の対象となる情報料債権は、債権者たるIP、債権金額、発生年月日、情報内容、利用回数等の内訳が明示されず、また、一般通話の通話料と区別せず、かつ、利用者が加入者自身か否かを問わず、加入者に対する債権として被告により請求されることから、トラブル発生の可能性が高く、それ自体争訟性をはらみ、また、被告の回収代行業務の実際においても、支払の催促や取立、分割払の合意等の和解契約、公正証書作成、支払命令申立、訴え提起、訴訟追行等をしており、これらは、法律事件に関して法律事務を取り扱うことに該当し、上記③の要件をも充足し、弁護士法七二条に違反する。
(3) 本件においても、被告は、原告らがダイヤルQ2料金について支払う必要がない、あるいは支払わない旨申し入れたのに対して、あくまでも支払を要求し、極めて強硬な態度で支払うよう催告し続けた。その具体例として、被告は、原告清水に対して脅迫まがいの強硬な取立てを行い、原告千葉に対しては分割弁済契約書、原告古田に対しては公正証書の各作成を強要したのであり、これら被告の行った具体的な回収代行行為の実態に照らせば、弁護士法七二条に違反することが一層明らかである。
三 争点3(ダイヤルQ2通話料の支払義務)
1 被告の主張
(一) 約款一一八条による支払義務の存在
約款一一八条は、約款三条及び四条と相俟って、いかなる利用形態のものであっても、第三者による利用を含め加入者回線からの通話料金については、加入者の支払義務を認めることにより、徴収事務に要する経費を低廉に抑え、等しく合理的な料金体系を適用して国民の利便をはかることを基本理念として認可制定されたものである。
したがって、ダイヤルQ2利用に係る通話料についても、約款一一八条により、加入者が支払義務を負う。たとえ、ダイヤルQ2による電話回線の利用が新たな利用形態であったとしても、それはFAX、パソコン通信等と同じく約款四条の存在を前提とした約款一一八条が予定していた事態といえる。
本件原告らは、加入者である以上、ダイヤルQ2通話料の支払義務がある。
(二) 通話料と情報料の関係
ダイヤル通話料は、被告と加入者との間の加入電話契約及び約款に基づき、被告所有の電気通信設備を使用したことに対する対価として被告に帰属し、通話内容及び目的とは無関係に発生する。
これに対し、情報料は、IPと利用者との間の有料情報提供契約に基づき、情報の提供を受けたことに対する対価としてIPに帰属する。
このように、IPと利用者との情報提供契約に基づく情報料債務と、被告と加入者との加入電話契約に基づくダイヤル通話料債務は、役務の内容を異にする別個の契約関係から生じる債務であり、権利の発生、存続、消滅の要件も全く異なり、法律上は別個独立のものである。また、被告とIP間には、ダイヤルQ2事業に対する被告の出資・利益・損失分配もなく、両者に経済的一体性はない。さらに、被告の電話サービス事業は国内電気通信事業(本来業務)であり、公共性が高いとともに、右事業を経営の根幹とする被告においては、ダイヤル通話料の確保は不可欠であるのに対し、被告の行うダイヤルQ2システムは「附帯業務」にすぎない。
したがって、ダイヤルQ2通話料と情報料とは一体不可分ではなく、情報料と別にダイヤルQ2通話料だけを別個独立に請求しても信義則に反しない。
なお、ダイヤルQ2情報料と通話料とは合成秒数により課金されるが、右情報料課金システムは、交換機の機能という技術的な問題上、情報料と通話料を合算して度数計算する方式を採用したにすぎず、両者の性質上の一体性によるものではない。
2 原告らの主張
(一) 約款一一八条の拘束力
(1) 約款一一八条は、電話による通信という公益性・公共性を重視して規定されたものである。
しかし、ダイヤルQ2は、極めて高額であり、加入者は不測の多額の損害を被ることが多く、サービス内容も専ら娯楽を目的とするものが殆どであり、被告とIPとの全く公益性・公共性のない情報提供販売の営利事業にすぎないから、約款一一八条適用の前提を欠く。
また、後記のとおり、ダイヤルQ2通話料と情報料は不可分一体の関係にある。したがって、ダイヤルQ2利用においては、ダイヤルQ2サービスという情報提供販売行為の対価としてのダイヤルQ2利用料があるだけで、ダイヤルQ2利用に伴う通話料というのも、IPとの共同情報提供営業の内部の売上按分の名称にすぎず、これだけを切り離すことはできない。
したがって、ダイヤルQ2利用料は、公益性・公共性を有する通話の対価としての約款一一八条の通話料には該当しない。
(2) 本件原告らが、加入電話契約を締結した時点では、ダイヤルQ2の存在及びその利用による多額の通話料債務の負担を予見できず、また、ダイヤルQ2導入に際しての被告の告示は追加変更約款の店舗掲示のみであり、原告らは右サービス導入を知り得なかった。さらに、被告は、現有の回線の状態のままで誰でもアクセスできるシステムを採用することにより、第三者のダイヤルQ2利用による加入者への突然の高額な電話料金請求による損害を生じさせた。結局、被告は、加入者の承諾なく、しかも十分な公示方法もなしに危険で有害なサービスを一方的に導入したものである。
それにもかかわらず、約款一一八条を加入者に不利益な方向で拡大解釈してダイヤルQ2通話料に適用することは、約款の拘束力の内容的要件である、明確性の原則及び民法の契約原則からの著しい逸脱がないこと、手続的要件である約款作成にあたり消費者の意向が反映するような制度的保証があること、消費者の意思を推定するに足りる状況が存在することなどの原則に反し、消費者にとって不利益な不意打ちとなり、許されない。
(3) ダイヤルQ2事業は、前記のとおり、郵政大臣の認可を要するところ、被告は認可を得ておらず、事業法三一条に違反し違法性を有する。かかる違法な事業であるダイヤルQ2に約款一一八条の拘束力を認めるべきではない。
(二) ダイヤルQ2における情報料と通話料の不可分一体性
ダイヤルQ2通話料と情報料とは不可分一体であり、右通話料は、情報料債権の成立及び有効性に法的運命を左右される付随的な債権であるから、通話料のみを請求することはできず、また、ダイヤルQ2情報料の支払義務が発生しない場合、右利用にかかる通話料の支払義務も生じない。
(1) ダイヤルQ2サービスの通信と情報提供の構造上の一体性
ダイヤルQ2においては、被告は、電話網とコンピュータシステムを組み合わせて有料情報提供サービスのシステムを構築し、特定のIPとダイヤルQ2契約を結んだ上、情報料提供専用の電話番号を提供し、IPのための情報料測定と回収代行を行って回収代行手数料を利益として得ていることから、被告は通信の媒介に関与する電話通信施設の提供者にとどまらず、被告自身が右業務の主体として、ダイヤルQ2システムの提供者としての地位にあり、ダイヤルQ2は被告とIPの共同事業といえる。
(2) 被告とIPの経済的一体性
被告は、ダイヤルQ2を開設して後、ダイヤルQ2の広告や、事業者に対するIPとなる旨の勧誘を続けた結果、多数の情報提供産業を発生させ、かつ、Q2システムの存在自体がIPの営業を成り立たせ、その利益収入を支えている。他方、被告は、各IPとの契約において、回収代行手数料をIPから継続的に徴収し、さらにダイヤルQ2においては、利用者は被告の電話回線を利用せざるをえず、必然的に通話料も生じることから、利用者からダイヤルQ2通話料も徴収することにより、利益をあげている。
右実態からすれば、ダイヤルQ2は経済的には、被告主導による被告とIPの共同収益事業である。そして、提供されるQ2番組は情報と電話サービスが一体となった一つの有料情報サービス商品であり、その収益も、右商品提供の対価として、情報料と通話料とが一体となったものである。
(3) 利用者側の認識
ダイヤルQ2の冒頭ガイダンスでは、通話料と情報料の各料金の説明はなく、両者を合算した「利用料金」に関する説明しかなされず、また、その電話番号がどの地域に掛けられるのかも知り得ない。したがって、利用者にとっては、ダイヤルQ2の利用に係る料金は、情報料と通話料が一体となった「ダイヤルQ2利用料」であるとの認識しかない。
(4) 情報料と通話料の不可分一体性
以上より、ダイヤルQ2は、情報提供と通信が構造上も経済的にもさらに利用者の認識においても、不可分一体となった、被告とIPによる一個の有料情報サービスであり、その利用の対価としては、情報料と通話料を区別できず、「ダイヤルQ2利用料」のみが存在する。
また、概念的に両者を区別できても、両者は一体であり、右通話料は、情報料債権の成立及び有効性に法的有効性を左右される付随的債権である。
したがって、情報提供契約自体が不成立、無効、取消により、原告らがダイヤルQ2利用の情報料支払義務を負わない場合は、同人らに被告に対するダイヤルQ2通話料の支払義務も生じない。
四 争点4(ダイヤルQ2利用に関する事実関係及び利用状況)
1 被告の主張
(一) 原告ら名義の加入電話によるダイヤルQ2の利用
原告ら名義の加入電話から、それぞれ別紙原告請求額等内訳表記載のとおり、ダイヤルQ2が利用された。
(二) 原告賀川及び同清水は、ダイヤルQ2架電の事実がない旨主張するが、原告らの電話設置場所は、原告らの住所地でいずれも居宅内であるから、原告またはその家族もしくは原告の承諾を得た第三者でなければ架電できない状況にあること、被告の料金請求内訳明細表は、度数表示、その金額換算及びこれを右明細に記録する過程において、正確性保持の措置がとられており、極めて信頼性が高いことなどの事実に照らせば、原告またはその家族もしくは原告の承諾を得た第三者が架電したものと推認できる。
2 原告らの主張
(一) 原告賀川及び同清水については、同人らもその同居の家族の誰もダイヤルQ2を利用したことがなく、ダイヤルQ2架電の事実が全くない。
(二)(1) 原告佐藤については同人の次男で当時一八歳のBが、原告岩田については同人の次男で当時一八歳のAが、原告古田については同人の長男で当時一九歳のDが、原告千葉については同人の長女で当時一四歳のFが、原告今野については同人の長男で当時一九歳のEが、いずれも原告らに無断でダイヤルQ2に電話を掛けた。
(2) 原告エヌアイプランニングは、不動産賃貸業等を営む株式会社であり、札幌市<番地略>に「Lハイツ」という下宿マンションを所有して下宿業を営んでいるが、右マンションの下宿人らが、原告エヌアイプランニングに無断でダイヤルQ2業者に電話を掛けた。電話を掛けた下宿人らは特定できない。
五 争点5(不当利得返還請求の成否)
1 原告らの主張
(一) 原告らは、被告に対し、ダイヤルQ2通話料及び情報料並びにその消費税として別紙請求金目録請求金額欄記載の各金員を支払った(但し、原告佐藤及び同千葉についてはダイヤルQ2通話料及びその消費税のみ)。原告らの被告に対する各支払は、法律上支払義務の存在しないものであるから、原告らは、被告に対し、支払済みの各金員について不当利得返還請求権を有する。
(二)(1) 被告は、ダイヤルQ2の情報料についてIPからこれを買い取って自らの債権として請求し、弁済を受けていると解されるから、被告はIPの代理人ではなく、被告に利得がある。
また、原告らは右情報料につき電話加入者として被告から請求を受け、自己の債務としてやむなく支払ったのであり、第三者として利用者のためIP(被告の主張ではIPの代理人たる被告)に弁済したものではない。
(2) 利得の現存
被告が、原告らから代行回収した情報料をIPへ支払済みであっても、そもそもIPは原告らに対し情報料債権を有しないから、被告のIPに対する回収情報料の支払は義務のない非債弁済であり、被告はIPに対し、支払った情報料の返還請求権を有する(ダイヤルQ2契約一八条二項によっても、被告はIPに対する返還請求権を有する)。したがって、利得した金銭が返還請求権という債権に形を変えているだけである。のみならず、原告らがIPに対して右情報料を回収するよりも被告がIPに対してこれを回収するほうが格段に容易であること、ダイヤルQ2の欠陥による利得の偏在の是正は被告に負担させるべきことなどを併せ考慮すれば、被告の利得の現存を認めることが、公平の理念に資する。
2 被告の主張
(一) ダイヤルQ2通話料について
ダイヤルQ2通話料は、約款一一八条により、原告らは被告に対し支払義務があり、被告はこれを受領する権限があるから返還義務はない。
(二) ダイヤルQ2情報料について
(1) 本件において、利用者は、情報提供利用契約による情報料債務を負いながらこれを支払っていないのだから、利得者にあたる。一方、利用者は情報料の立替払いを原告ら契約者に依頼している関係にあるから、仮に右立替払いの契約が無効であったとしても、契約者が支払った情報料を求償すべき相手は被告ではなく利用者である。
(2) 被告は債権者ではなくIPの代理人として情報料を受領したにすぎないから、代理人である被告に独立の利得はなく、本人であるIPに対して返還請求すべきである。
また、原告らがIPの代理人である被告に対してした本件情報料の支払は、利用者のIPに対する債務を第三者として弁済したとみられるから、原告らの被告に対する右情報料の不当利得返還請求権は発生しない。
(3) 現存利益の不存在
被告は、原告らから受領した情報料を、IPとのダイヤルQ2契約により各IPに対して全額を支払済みであるから、被告には利得は存在しない。
六 争点6(原告岩田の加入電話契約の存在確認及び通話停止期間中の回線使用料の債務不存在確認)
(原告岩田の主張)
原告岩田は、支払義務のないダイヤルQ2料金の支払を拒否したところ、被告から一方的に加入電話の利用を停止されたものであるから、加入電話契約の基本料金等電話利用の対価を支払う義務はない。また、かかる一方的な利用停止措置をした被告が、その後も原告岩田に対し基本料金の請求をなすことは信義則に反し許されない。
よって、原告岩田は、被告に対し、被告の加入電話契約の解除の無効を理由として、加入電話契約が存続していることの確認を求めるとともに、被告から請求されている平成四年四月分及び同年六月分ないし平成五年六月分の電話料金の支払義務が存在しないことの確認を求める。
七 争点7(原告清水の損害賠償請求の成否)
(原告清水の主張)
原告清水は、平成三年一〇月下旬ころ、被告からダイヤルQ2情報料及び通話料を含む電話料金を請求されたが、原告清水は、同人も同居の家族もダイヤルQ2利用の事実がないとして、料金の支払を拒否した。
被告札幌支店西営業所の太田征夫担当課長は原告清水の妻に対し、支払拒否は認められないこと、支払拒否をすると通話停止の可能性があり、さらに、暗に暴力団とおぼしきIPから強行な取立がなされてもやむを得ないこと等の言動を示して支払を迫り、原告清水を威嚇した。そのため、原告清水は、被告に対し、請求金額の全額を支払った。
右のとおり、被告職員である太田は支払義務のない債権について、脅迫に近い言動をもって原告清水を威嚇し、不法に支払を強制した。これにより、原告清水は、多大な精神的損害を被り、この損害は金銭に換算すると三〇万円を下らない。右太田の行為は不法行為に該当し、被告は太田の使用者として、民法七一五条により原告清水が被った損害を賠償すべき義務がある。